スポーツと精神障害

スポーツ大会と精神障害に関する歴史と概要

精神障害とスポーツ大会等の歴史と概要

1.はじめに

人の生活と活動は、NHK生活時間調査(5年に1回)に3つの大分類がある。1つは必需時行動(睡眠・食事等:動物的時間)、2つ目が拘束行動(仕事や家事等:社会的時間)、3つ目が自由行動で文化的で最も人間的時間でレジャーや「スポーツ」、趣味や教養がある。そして、食事・睡眠・運動は、健康増進等として健康日本21、精神保健で重視されている。また、子供のあそびや運動は発達にも重要で、身体機能、学習、対人関係・社会性、社会参加、就労等に影響する。1980年頃から精神障害の地域活動が活発化し、保健所デイケア・共同作業所では、遊びを通して楽しい体力づくり、仲間づくりにスポーツが取り入れられる。そして、地域や市町村・都道府県では、障害者や精神障害のスポーツ大会が行われる。

障害者基本法(1993年:心身障害者対策基本法改正)を受けて精神保健福祉法改訂(1995年)では、①心の健康(精神保健)、②精神障害(疾患:精神医療)の一部に③精神障害者保健福祉手帳が位置付けられ、社会福祉・障害者福祉の対象(精神障害者)となる。そして、精神障害の社会復帰を果たす上で障害になる諸問題の解決、社会の風を入れる社会の視点から精神保健福祉士(MHSW)が位置付けられる(1997年)。1998年ぜんかれん小規模作業所利用者生活実態調査では、生活の困難を抱える人は実用性の障害で、現在のやりがい生きがいは仕事(34%)、趣味やスポーツ30%、生活や家族と10%である(主任岡上和雄氏)。

我が国の障害者(生活障害)は、身体障害者福祉法(1949年)手帳制度で「身体障害者」が、知的障害者福祉法(1960年:精神薄弱者福祉法)ができて、通知文で療育手帳制度「知的障害者」が位置付けられる(1973年)。そして、障害者のスポーツは、東京オリンピック後に東京パラリンピックが開催される(1946年)。翌年には身体障害者スポーツ大会(身体障害者スポーツ協会)が開催される。その後、多様な身体障害者スポーツ大会が開催されている。そして、国連障害者の十年では、1992年ゆうあいぴっく(全国知的的障害者スポーツ大会:知的障害者スポーツ協会)が開催される。

1998年頃、身体障害者スポーツ協会と知的障害者スポーツ協会は、日本障害者スポーツ協会(以下、日障協、現:日本パラスポーツ協会:HP有)として、「全国障害者スポーツ大会(以下、全スポ)」が2001年宮城県で開催となる。全スポは、障害のある選手の「スポーツの祭典」で、国民の障害に対する理解と、障害者の社会参加の推進を目的としている。選手は障害者手帳の所持者(身体障害者手帳、療育手帳)で各都道府県・政令市の代表選手として参加する(施設は社会福祉施設)。その後、多様な競技団体が出来て、多様な大会が開催され、国際大会やパラリンピックがある。

2.障害者スポーツと精神障害

我が国の社会福祉の障害者手帳制度(身体・知的)では、精神障害が47年~22年遅い制度化である。また、障害者の社会参加である障害者スポーツ(身体・知的)は、精神障害が50~10年遅い状況である。従って、精神障害では、スポーツ、競技団体・スポーツ大会、障害者・障害者スポーツ等に関する理解が充分でない状況がある。公益社団法人日本精神保健福祉連盟(以下、連盟)は、精神障害の社会参加の促進に向け、1998年精神障害者スポーツ推進委員会(委員長丸山一郎氏)を設置する。委員会は、精神障害のスポーツに関する全国調査研究を実施する(1999年主任高畑隆)。調査では、全国の精神障害が参加するスポーツ大会の状況を把握し、報告書を作成する。調査で都道府県、市町村では、精神障害が参加する障害者・高齢者スポーツ大会、障害種別を越えたスポーツ大会、精神障害のスポーツ大会、県大会が開催され、年間5万人の精神障害が様々なスポーツ大会に参加している。

2000年連盟精神障害者スポーツ推進委員会は、宮城県関係者に全スポへの精神障害の参加を働きかける。宮城県精神保健福祉関係者は一丸となって、全スポ関連行事として精神障害バレーボール大会を2001年9月に開催する(今野功氏等の助力)。バレーボール(精神障害)ルールは、地域の精神障害スポーツ大会(東京都等)で使用のソフトバレーボール(日本ソフトバレーボール連盟公認球:ソフトバレーボール球・糸巻きタイプ(モルテン 製円周78±1cm、重量210g±10g)、コート内に女性1名の参加である。

その後、連盟は全スポが予定される各県の関係者に働きかける。全スポ第2回高知県大会(2002年)は、高知県精神保健福祉関係者の熱意と努力と知事の英断で、主催県のスポーツ振興・オープン競技(単年度)団体バレーボール(精神)として開催される(田所淳子氏等が助力)。そして、2003年3回埼玉県大会では、連盟が製薬会社と高知県・埼玉県関係者等の協力で、広報DVD「コートに輝く笑顔と汗」を作成して普及を図る(大西守、田所淳子等が助力)。その後の全スポ開催県とその県の精神保健福祉関係者の助力で、主催県のスポーツ振興・オープン競技(単年度)団体バレーボール(精神)が開催される(静岡県、埼玉県、岡山県、兵庫県、秋田県)。2008年第8回大分県大会では、日障協、主催県の障害者スポーツ関係者・バレーボール関係者の熱意と助力で、正式競技・団体バレーボール(精神)として三障害の一翼に位置付けられる(堀川裕二氏等が助力)。大分県大会では、バレーボール種目で身体障害、知的障害、精神障害の三障害が同じ体育館で開催され、皇太子殿下がご覧になられる。

全スポ団体競技は、全国6ブロック予選会を経て、代表の都道府県・政令市が全スポに参加する。一方、全スポ個人競技は都道府県・政令市から直接、全スポに選手が参加できる。個人競技(精神)は、日障協・技術委員会(現日パラ、委員長大久保春美氏)と関係者の助力で、精神障害のスポーツに関する調査研究委員会が設置され、精神障害に関するスポーツの調査研究が実施される(2011年~2013年(委員精神に高畑隆、瀬川聖美氏))。調査では、精神障害のスポーツ大会参加と効果、種目(ボーリング・フライングディスク・卓球)等が検討される。この調査報告書(214年)を踏まえて、日パラ等で検討がなされる。2019年全スポ第19回大会茨城県大会から個人種目卓球に精神障害が位置付けられる。しかし、全スポ茨城県大会・鹿児島県大会・三重県大会は、台風やコロナ禍で中止となる。そして、2022年全スポ第22回栃木県大会は、個人競技卓球に初めて精神障害者が参加する。

スポーツは競技団体が組織されてチームや選手登録を踏まえ、スポーツ大会が開催される。スポーツ大会では、競技ルールに基づき、選手の参加条件が大会ごとに明確であり、公認審判員の判定・記録、選手氏名の公表、マスコミ等の写真撮影が行われる。全スポは「障害者のスポーツ祭典」で、障害のある選手(手帳所持者)の生きる目標、社会参加の推進、市民への障害者理解の促進として、様々な影響を本人と周囲に与える。そこで、全スポへの参加では、新しい人の社会参加を推進している。従って、個人競技では都道府県・政令市選考会で1位の方が必ずしも全スポに参加できるとは限らないのである。また、団体競技は、都道府県・政令指定都市の地域全体の代表で、都道府県・政令市名のユニフォーム着用、選抜チーム(地域型クラブ、当事者クラブ等)での参加が望まれる。そして、選手は都道府県・政令市代表で、住民票のある地域からの参加である(施設は社会福祉施設)。代表選手・関係者は、地元の地域全体に障害者スポーツ振興の役割がある。

全スポ参加選手団は、都道府県・政令市の行政単位の代表選手である(住民票、手帳制度)。この選手団人数は、各都道府県・政令市の障害者手帳数で案分される。選手は、障害者手帳所持者が原則の障害者のスポーツ祭典である。従って、精神障害者保健福祉手帳所持と住民票のある都道府県・政令市からの参加が原則である(施設は社会福祉施設)。全スポ大会は、全14種目(個人7種目、団体7種目)、選手団5000人(身体1200人、知的1200人)である。精神障害者保健福祉手帳の所持者は100万人を超えている。しかし、精神障害者は、個人卓球、団体バレーボールの2種目150人程度の参加である。全スポでは、精神障害者の種目や人数の参加はまだまだの状況である。全スポ参加の方では、全スポ大会の趣旨と選手の参加要件、障害者スポーツの原則を十分に理解して、大会参加が望まれる。例えば、スポーツ大会参加では、選手の参加基準、競技ルール、審判員資格取得、競技団体理解等、スポーツとスポーツ大会の理解がある。また、障害者スポーツ理解では「障害のある人のスポーツ指導教本(初級、中級)」がある。また、障害者スポーツ推進では、パラスポーツ指導員資格(初級、中級、上級)取得がある。そして、全スポ参加では、年度初めに「全国障害者スポーツ大会競技規則集」が出されるので、大会ルールの十分な熟知が望まれる。

全スポ競技種目は、競技団体があって全スポ種目に位置付けられる。全スポ個人卓球(精神)、団体バレーボール(精神)は、競技団体と全国的なスポーツ競技大会がないままの位置づけである。今後、精神障害の卓球とバレーボール競技団体、競技大会づくりが急務である。

3.精神障害とスポーツ

精神障害(疾患)のスポーツ推進では、学術的な側面の活動がある。スポーツ精神医学は、1987 年リック・マシミーノ氏が1992年国際学会 (International Society for Sport Psychiatry: ISSP) を開催する。我が国では2002年永島正紀氏が日本スポーツ精神医学会(HP有)を組織し、第1回学術集会(2003 年)を開催する。スポーツ精神医学会は、①スポーツの精神医学への応用、②精神医学のスポーツへの応用を2本柱に、③身体運動と脳機能の基礎的研究を組み入れた、三本柱でスポーツと精神医学の関係を包括的に捉えて活動している。学会は学会誌と「スポーツ精神医学」を出版し、精神障害のスポーツを学術的側面で研究活動を行っている。

精神障害(疾患)のフットサル大会は2007年大阪で開催され、ソーシャルフットボール協会(会長岡村武彦氏)が設立される(HP有)。その後、各地で大会が開催され、多様な大会と全国大会・国際大会が開催される。2015年第1回全国大会は名古屋市で開催される(坂井一也氏等)。そして、全スポ・オープン競技の位置づけでは、東京都大会(2013年全スポ第13回大会)、愛媛県大会(2017年全スポ第17回大会)、第5回全国大会佐賀県大会(2024年全スポ第23回大会)がある。2013年東京都大会では、一般社団法人精神障害者地域生活支援とうよう会議がDVD「スポーツ祭東京2013精神障害者フットサル」を作成し、普及啓発を図っている(瀬川聖美・小柳ゆかり氏等)。

フットサルの国際大会は、2011年3月東日本大震災直前に精神障害フットサルチーム(高槻フットサルクラブ:岡村武彦氏)がイタリア・ローマに遠征して試合を行っている(情報提供菅原かほる氏、連絡調整田中暢子氏等の助力)。連盟・精神障害者スポーツ推進委員会(委員長大西守)は、2013年10月5日東京・明治学院大学で第1回精神障がい者国際シンポジウムを開催、海外7カ国(イタリア、イングランド、デンマーク、ドイツ、アルゼンチン、ペルー、韓国等の招待者)260名以上が参加する(田中暢子氏が助力)。そして「精神障がい者スポーツ東京宣言2013」が採択される。同年10月7日第1回精神障がい者スポーツ国際会議が開催され、サッカー、フットサルの国際大会開催を目指している(選手はF2.F3を主要疾患と想定)。

この状況を受けて、我が国では、精神科デイケア・地域作業所・事業所、当事者団体等を母体に地域クラブチームでフットサルが盛んになる。そして、各地域で精神障害フットサル団体が作られ、多様なフットサル大会が開催される。その後、フットサル精神障害の国際大会は、2016年第1回国際交流スポーツ大会が堺市で開催され(イタリア、日本。ペルーなどが参加)、2018年第2回ドリームワールドカップがイタリア・ローマで開催(イタリア、チリ、ハンガリー、ペルー、ウクライナ、日本、アルゼンチン、スペイン、セネガル、フランス)、第3回大会はコロナで中止となり、2015年国際大会がある。

障害者サッカー7団体は、2015年日本障がい者サッカー連盟(JIFF会長北澤豪氏:HP有)を設立し、ソーシャルフットボール協会もその一翼を担っている。日本障がい者サッカー連盟の構成団体は、日本アンプティサッカー協会、日本CPサッカー協会、日本ソーシャルフットボール協会、日本知的障がい者サッカー連盟、日本電動車椅子サッカー協会、日本ブラインドサッカー協会、日本ろう者サッカー協会である。日本障がい者サッカー連盟は、日本サッカー協会(JFA)関連団体として加盟している。

2011年千葉県では、バスケットボールのドリームカップが開催(NPO法人日本ドリームバスケットボール協会(法人化2014年)、現:ソーシャルバスケットボール協会(2219年改名):会長鎗田英樹氏:HP有)される。そして、第1回精神障害者バスケットボール大会「ちばドリームカップ2013」が開催される。その後、全国各地でラウンド(バスケットボール大会等)を開催している。また、台湾や東南アジアとも交流を行っている。

バレーボールや卓球など、多様な精神障害スポーツ団体づくりは手帳所持者だけでなく、多くの精神障害の方々が参加する様々な大会が可能である。そして、多様なスポーツ競技大会・全国大会、国際大会開催につながる。また、次世代の精神障害(精神疾患)・精神障害者(手帳所持者)の社会参加推進にもつながる。

4.おわりに

スポーツは身体活動、レクリエーション、ゆるスポーツ、アーバンスポーツ、競技スポーツ、Eスポーツ、アグリスポーツ(食育)など、多様なスポーツがある。また、小学校ではダンス科目が必修になるなど、新しいスポーツの活用がある。

精神障害・精神障害者の方がスポーツを半年から数年間継続することでは、服薬管理、生活習慣改善(食事、睡眠)、基礎体力、仲間づくり、社会性、障害者手帳取得、QOL、自立生活、社会参加、就労、市民の障害理解など、様々な影響がある。練習プロセスでは笑顔と笑いを目標に、夢に向けて、一瞬一瞬の判断・選択を大切に、次により良くへとの自己評価を高める活動でもある。そして、スポーツはやりがい、生きがい、生きる目標、生涯スポーツである。

今後、精神障害・精神障害者は、何時でもどこでも誰もが身体活動・スポーツを気軽に楽しみ、多様なスポーツ競技団体・スポーツ大会に参加できる環境づくりに向けて、皆様のご助力・ご協力をお願いいたします。

2024年5月
社団法人日本精神保健福祉連盟
精神障害者スポーツ推進委員会
委員長 高畑隆

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